🏥【呼吸器内科医が解説】気になる「痰」
田町・三田駅近くで診療しております、呼吸器内科医の岸本久美子です。
風邪やインフルエンザ、または慢性的な病気で、誰もが一度は経験する「痰」。ただの不快な症状と思われがちですが、実は痰の色や粘度は、あなたの肺や気管支の状態を教えてくれる大切なサインなのです。
今回は、この「痰」のメカニズムから、その性状が示す意味、原因となる疾患、そして治療に用いられるお薬について詳しく解説します。
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1. そもそも「痰(たん)」とは何でしょうか?
痰は、気道(のど、気管、気管支)で作られる分泌物です。健康な人でも、気道は常に粘液(ネバネバした液体)を作って、吸い込んだホコリ、細菌、ウイルス、PM2.5などの異物を絡め取り、外に排出しています。この粘液が、咳によって口から排出されたものが「痰」です。
本来、気道の粘液は異物を胃に送る「線毛(せんもう)」という細かい毛の働きで処理されますが、炎症や刺激があると分泌量が増えたり、粘度が高くなったりして、痰として排出されるようになります。
2. ⚠️痰の色と性状が示すサイン
痰の色や粘度は、原因となる病態によって大きく異なります。
| 性状 | 特徴 | 示唆される主な病態・原因 |
|---|---|---|
| 白色・透明 | 泡状、または粘り気が強い | アレルギー性鼻炎、喘息(ぜんそく)の初期、または刺激性の喫煙 |
| 黄色・緑色 | 粘り気が強い(膿性痰) | 細菌感染(風邪の悪化、気管支炎、肺炎) |
| 錆色(さびいろ) | 茶褐色、または血液が混じる | 肺炎球菌性肺炎など、重い肺炎の可能性 |
| ピンク色・泡状 | 稀で、泡立っている | 心不全(肺水腫)など、呼吸器以外の重篤な病態 |
| 血痰(けったん) | 鮮血や血液の塊が混じる | 肺結核、気管支拡張症、肺がんなど(至急受診が必要です) |
特に黄色や緑色の痰が出始めたら、感染の可能性がありますので早めに受診を検討しましょう。
3. 「痰」が出る主な原因疾患
痰の異常な増加や性状変化を引き起こす主な呼吸器疾患には、以下のようなものがあります。
- 急性気管支炎・肺炎: ウイルスや細菌による感染で、気道に強い炎症が起こり、黄色や緑色の膿性痰が出ます。
- 気管支喘息(ぜんそく): 気道が慢性的に炎症を起こし、刺激に過敏になっています。粘度の高い、透明〜白色の痰が出ることがあります。
- 慢性閉塞性肺疾患(COPD): 喫煙などが原因で肺の機能が低下し、慢性的に咳と痰が続きます。
- 肺結核・肺がん: 重大な疾患の場合、血痰が出ることがあります。
痰は本来下気道由来の粘液ですが、鼻汁が喉の奥に流れる後鼻漏や喉に痰が詰まったような症状が出る上咽頭炎など、上気道の問題や逆流性食道炎などの消化器疾患、心不全なども鑑別になります。
4. 痰の治療に使用される主な薬剤
痰の治療は、痰を出しやすくすること(去痰)と、原因となっている病気の治療を同時に行うことが基本です。ここでは、特に痰の排出を助ける「去痰薬」について、もう少し詳しくご紹介します。
(1) 痰を出しやすくする薬(去痰薬)
去痰薬は、作用機序によって大きく3つのタイプに分けられます。去痰薬といっても実は何種類もありますので、痰の粘度や患者さんの状態に合わせて最適な薬を選択するのが望ましいでしょう。
| タイプ | 薬剤の作用と代表的な成分・商品名 | 主な特徴と適応 |
|---|---|---|
| A. 粘液調整薬 | 痰の成分であるムチンという物質の構造を改善し、粘度を調整してサラサラにする。 成分名:カルボシステイン (商品名:ムコダイン® など) 成分名:アンブロキソール (商品名:ムコソルバン® など) |
広く用いられる。慢性的な痰、急性気管支炎、肺炎など、様々な疾患の痰に使用。 |
| B. 粘液溶解薬 | 痰のネバネバの元であるタンパク質の結合(ジスルフィド結合)を直接切断し、粘度を強力に低下させる。 成分名:アセチルシステイン (商品名:ムコフィリン®、L-システイン製剤 など) |
非常に粘り気の強い痰(膿性痰)や、痰の詰まりがひどい場合に効果的。 |
| C. 気道潤滑・線毛運動促進薬 | 気道の分泌液を増やして痰を薄めたり、痰を外へ運ぶ「線毛(せんもう)」の働きを活発にしたりすることで、痰の排出を助ける。 成分名:ブロムヘキシン 成分名:メチルシステイン |
特に乾燥した痰や、線毛機能が低下している場合に補助的に使用。 |
(2) 原因疾患を治療する薬
- 抗菌薬(抗生物質): 細菌感染が原因(黄色・緑色の痰)の場合に使用されます。
- 気管支拡張薬・吸入ステロイド: 喘息やCOPDなど、慢性的な炎症が原因の場合に使用されます。
5. 最後に
痰はあなたの気道の健康バロメーターです。いつもの痰と違う、色が変わった、量が増えた、特に血痰が出た、という場合は、決して放置せず、すぐに呼吸器内科を受診してください。
当院では、痰の性状から隠れた病気がないか診断いたします。お気軽にご相談ください。





