当院では2024年6月から『にんにく注射』を開始しております。
ここではにんにく注射に関して解説いたします。

1.ビタミンB1について

ビタミンは体内で生成できないため、外部から摂取しなくてはならない栄養素です。ビタミンB1自体がエネルギーに変化するわけではなく、ブドウ糖からエネルギーを作る過程をサポートします（補酵素といいます）。
ビタミンB1が不足すると、体内でエネルギーが作れない上に乳酸が蓄積していき、疲労の原因となってしまいます。

ビタミンB1は豚肉、豆類、ほうれん草などに含まれ、一日の摂取量の目安は、男性が1.4mg、女性が1.1mgを推奨しております。豚バラ肉100gに対し、ビタミンB1は約0.5mgですので、食品に含まれている量はとても少ないことが分かります。また食べた物全てが吸収されるわけではなく、吸収率は60％程度であるため、食品からの吸収量はさらに少ないことになります。
ビタミンB1の１日の摂取量を目指すために、普段の食事がいかに重要であるかがわかります。

2.にんにく注射とは

にんにく注射に含まれる成分はフルスルチアミンというビタミンB1の誘導体（構造を変化させた物質）です。これはチアミン（ビタミンB1）にアリシンという物質が結合しております。このアリシンとはアミノ酸の一種で、にんにくや玉葱などの香りの元となる物質です。（イメージするなら豚肉の生姜焼きでしょうか？）

3.どのような効果があるの？

フルスルチアミンはビタミンB1欠乏（脚気、ウェルニッケ脳症など）に対する治療薬として使用されておりますが、近年疲労回復効果が期待されております。
症例が限定的ではございますが、潰瘍性大腸炎の方に対するチアミンの投与は、疲労回復効果を示しております。また少ない症例数ですが、脳梗塞後や運動後の疲労にも効果があったとの報告もあります。

記憶力回復、抗うつ、抗がん、神経症の改善など、様々な症状や病変の回復にも期待されておりますが、現状ではまだ確実な効果を証明できてはおりません。

通常しっかりと食事をとっていればビタミンB1が不足することはありません。
多忙や体調不良により食事が摂れず栄養素を補充できていない方、なかなか疲労感が取れない方は注射で回復する可能性もございますので、ご検討ください。

4.内服との違いは

成分は同じであるため、吸収率に差があること以外は特にありません。上述したように経口吸収率は60％程度であるため、注射製剤の方が吸収率は高くなります。またビタミンB1自体の半減期は10〜14日とされてますので、注射の効果は長くとも２週間と考えます。
※半減期：体内の物質が代謝により半分に減るまでに必要な時間

5.副作用は？

まず、臭いがあります。これはアリシンが血流に乗って鼻の血管まで到達すると、にんにく臭がします。しかしこれは一過性のものであり、自然に消失致します。
次に、注射製剤であるため、注射部位の局所反応や薬剤によるアレルギー症状はゼロではありません。これはにんにく注射のみならず、どの薬品でも起こりえます。

ビタミンB1を注射しても摂り過ぎにならないのかという点では、まずならないと考えていいでしょう。ビタミンB1は体内の貯蔵量が25mg〜30mgとされており、それ以上の摂取は尿から排泄されます。吸収量に限界があるため、過剰症にはなりません。

以上になります。
にんにく注射にご興味がございましたら、スタッフにまでお声がけください。

参考文献

• 水谷雅臣, ビタミンB, JSPEN Vol. 1(2):2019
• Palle BagerAliment, Randomised clinical trial: high-dose oral thiamine versus placebo for chronic fatigue in patients with quiescent inflammatory bowel disease, Pharmacol Ther. 2021 Jan;53(1):79-86.
• Antonio Costantini, High-dose thiamine improves fatigue after stroke: a report of three cases, J Altern Complement Med. 2014 Sep;20(9):683-5.
• 厚生労働省　https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000067134.pdf
• Bernardo Starling-Soares, Role of the Synthetic B1 Vitamin Sulbutiamine on Health, J Nutr Metab 2020 Apr 20:2020:9349063.
• M Suzuki, Effects of thiamine supplementation on exercise-induced fatigue, Metab Brain Dis.1996 Mar;11(1):95-106.